朝から築地半値市に出かけた日の夜。
家族から久しぶりに出た外食のリクエストは、神田の
ラ・テスタドゥーラでした。
この店はかつて西葛西にあって、ひときわ輝いていた店だった。
突然の閉店と偶然の再会については以前
書いた。
西葛西を離れても神田で着実に評判をあげているのは嬉しいことだ。
出来ることなら週に一回は行きたいところだが、場所が離れてしまったのでそうもいかない。
そのため、行くときは移動中から何を食べようか考えるくらいの楽しみになる。
この日は家族全員がバラバラに外出していたので現地集合することになった。
8時に待ち合わせだったのだが、一番行きたがっていた長男が着いたのは9時前。私にいたっては9時を随分過ぎていた。
メインのラストオーダーは9時半、デザート、パスタは10時。
先についていたカミさんに、あらかじめ頼んでおいて貰ってよかった。
それでも店は気を利かせてくれて、ややゆっくり目に出してくれていたらしい。私がついた頃からパスタが出始めた。
店には迷惑をかけたのだが、こういう気遣いは嬉しいものだ。
前菜は食べ損ねたけれど、パスタからは家族全員で食べられる。


春野菜と豆のパスタと花ズッキ−ニのリゾット。
パスタはアーリオ・オーリオのソースに野菜と豆の甘さが絡み合う。
リゾットのブイヨンの風味にやや癖を感じるが、いかにも春らしいリゾット。チーズの旨味は濃厚なのだが、重く感じることはない。
この他にもジャガイモとジェノベーゼ・ソースが絡んだパスタや、ラグー・ソースのブカティーニなど、どれも相変わらず美味しい。
パスタは生パスタと乾麺を使ったものがあり、生パスタは季節の食材と合わせることが多い。


パスタもメインも基本的にポーションは大きめで、2〜3人で取り分けるぐらいの量がある。
赤座海老のリングイネを取り分けた写真ですが、これでも充分な量でしょ。
そして量だけでなく、パスタとしてとにかく美味しい。トマトベースの軽めのソースに、火が入ることによって甘みの増したフルーツトマトが味の変化をつける。赤座海老の身の甘さはまた違った楽しさだ。
右の写真は八郷しゃもの炭火焼、ういきょうとオレンジのサラダ添え。
皮目はパリッと焼き上げ、身はシットリ。丁寧に焼き上げた軍鶏は、軍鶏独特の噛み応えがある。
鶏肉というとジューシーさと柔らかさを求める傾向が強いが、肉の旨味が濃いものは噛み応えがあってこそ旨さが引立つと言うものだ。
茨城産の軍鶏というと奥久慈しゃもが有名だが、八郷しゃもも茨城産。世に出たのは奥久慈しゃもよりも後だから、知名度は今ひとつだけれど最近は見かけることが増えた。
奥久慈しゃもはバブルの頃に広く使われるようになったが、一般的に知れるようになったのは阿佐ヶ谷から銀座に移った焼き鳥屋バードランドの知名度が上がってからだ。それに対して八郷しゃもは、むしろ地元の飲食店から広まってきたと言う印象が強い。
奥久慈に対して決して劣る食材ではない。旨いですよ。
照明の関係で色目が綺麗に出ていないのが残念なのだが、この日私が一番唸ったのがもち豚。
この店で普段使われるのは白金豚。
白金豚も今ではブランド豚として定着している美味しい豚肉。白金豚ロースの炭火焼はテスタドゥーラの定番になっている。
しかしこの日はもち豚のバラ肉を焼いてくれると言う。豚の脂身は美味しい。そしてバラ肉はその美味しい脂と身が層になった部分だ。上手く焼いてくれれば身の旨味と脂の旨味が口の中に溢れるはず。
いつもはないもち豚が何でアラカルトで出てきたのかと言うと、自家製のパンチェッタを作るためにもち豚のバラ肉を仕入れたからだそうだ。
パンチェッタは豚バラ肉の塩漬けで、ベーコンに似ているがベーコンのように燻製にはしない。カルボナーラを作るときにベーコンを使うことが多いが、本来はほほ肉の塩漬けであるグァンチャーレを使う。しかしグァンチャーレはなかなか手に入らない。グァンチャーレが手に入らなければ、同じ生ベーコンであるパンチェッタになる。
それをもち豚で自分で作っている。アンチョビも自家製にしていると聞いたことがある。
魚は沼津などから直送してもらっているし、生ハムはパルマではなくてサンダニエーレだ。イタリアの生ハムと聞くとパルマを思い浮かべるが、サンダニエーレのほうが格上と言われている。
自分が美味しいと思うものを出す。自分で作れるものは自分で作る。
本当は仕入れコストとか色々と絡んでくるのかもしれない。でもそんなことは私には関係ない。
自分たちが美味しいと思うものを、自分たちが美味しくなると思う方法で出してくれる。
それが嬉しい。
これが個人店の楽しみだ。
出てきたもち豚は想像以上の旨さを持っていた。
付け合せは皮をむいて焼いたナスとレンズマメ。もち豚はバジルの香りたっぷりのソースをまとっている。表面はカリッとしているのだが、口の中でホロリと崩れる。
焼きながら上手いこと脂を落としてあるので、口の中が脂っぽくなることはない。それでいて噛むとジュワッと旨味が染み出してくる。
塩加減が素晴らしい。
豚肉の旨味自体は牛と比べると淡白だ。だからこそ塩加減が重要になってくる。塩が効きすぎてもいけない。そして適度に塩が回った脂身の旨さは何物にも変えがたい。
久しぶりに目を見張るほど美味しいものを食べた。
西葛西でこの店に出会えてよかった。
そして偶然にも再会できた。
この店が消えてしまわなかったのは喜ばしい。
たまたまこの日の午前中に築地半値市でもち豚のロース肉を手に入れたのだが、今晩それを料理するつもり。
テスタドゥーラの吉田シェフならどのように料理するのだろう。
素材が良いのだから、多分そんなに手を加えずに旨味を引き出すに違いない。
私にはとてもそんな技術はないので、生姜焼きにでもしてしまおうか。
それでも家族に美味しく食べてもらおうと、自分で工夫して手間隙かければ美味しくなるはずだと信じている。
そう確信できるのも、テスタドゥーラのお陰と言っても良いかも知れない。

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