築地に行ったついでに足を延ばして新橋へ。
場所は
港区西新橋3−5−1。
ここに伝説のカレー屋
Nagafuchiがある。
初代店主はコンピューター会社から脱サラして、築地でカレー屋を始めた。
日本橋にある通称蔦カレーに通い詰め、独学で研究開発した薬膳カレーは徐々に評判を呼ぶ。
夏に出すアイスカレーなるものも話題を集め、メディアに取り上げられるようにもなり新橋に移転する。
スープカレーが市民権を得る前に、ホールスパイスを挽いて作るサラサラカレーを出していた。
ブイヨンの取り方も独特であったらしい。
野菜をたっぷり使ったドライカレーにも、豆腐カレーにもコアなファンがいたらしい。
しかし新橋に移転した後、道半ばで癌に倒れる。
現店主はその遺志を継いで店を再開させた。しかし初代のカレーを食べたことはないと言う。
レシピは残っているので、何とか初代のカレーを再現したいと奮闘している。
初代の奥方は『同じレシピなのに主人とは違う優しい味』と表現している。
評判だった初代の味はどんなものだったのだろう。
食べたこともなかったのに、店を再開させた現在の店主はどんな人なのだろう。
評判だった先代のカレーを食べたこともないのに再現しようとするのは無謀とも言えるのに、何を思って取り組もうと決意したのか。
いかなる経緯で店長となったのか。
いろいろと興味は尽きない。

入り口も店内も清潔感のある作り。
新橋と言う土地柄を考慮してのことでしょうが、神保町あたりのカレー屋とはちょっと雰囲気が違います。カウンターの正面には焼酎のボトルが並び、夜はカレー居酒屋のようになる。
新橋のOLも、サラリーマンも、両方意識した作り。
カウンターの奥にはガラスで仕切られた厨房があり、店主がカレーを仕込んでいる。女性3人のスタッフの動きも良いし、対応も気持ちいい。
みんなで良い店を作ろうとしているのが感じられる。
レシピが残っていると書いたけれど、レシピ通りに作れば同じ味が再現できると言うものではない。
タマネギの炒め方の違いでカレーの味の骨格は全く違ったものになる。
スパイスの挽き方でも別物になる。
珈琲でも焙煎の仕方で味が変わるように、カレーでもスパイスの煎り具合は重要な要素だ。
店を再開させた時には、以前あった全てのメニューを復活させた訳ではなかったらしい。
先代が亡くなってからわずか3ヶ月での店の再開。
しかも店主は先代のカレーを食べていない。
今でも試行錯誤が続いていることは容易に想像がつく。
そんな店主がやっと復活させたのがドライカレー。
野菜たっぷりのカレーだそうです。
オリジナルカレーがいいか、ドライカレーにしようか、はたまた変り種を選ぼうか。
そしたらメニューの下のほうにハーフ&ハーフの文字を発見。
オリジナルとドライが両方味わえると言うので、これに決定。
サラサラ系だが、野菜でややトロミのついたカレーです。
系統としては
アサノ、
なか、なんかも同様の見栄え。
右上に味噌のように乗っているのがドライカレー。
ご飯の色が変わっているのは玄米を使っているから。
開店当初は普通のご飯だったらしい。玄米も出してみたら客の反応も良いので切り替えた。
普通のカレー専門店ではタマネギを炒めるのに大量の油を使う。その方が焦がさずに炒めやすいし、スパイスの香りも移しやすい。その分カロリーは高くなるし時間が経てば酸化もするので、体には負担がかかる。
インドではベジタリアンが多いのに、像のように恰幅の良い人が多いのはそのせいか。
しかしこの店では油の使用を極力抑えている。
ブイヨンには多目の野菜を使っているだろう。
基本的には辛味の勝ったカレーだが、野菜の甘みが下支えしている。
ドライカレーは甘みの方が強いぐらいのカレーに仕上がっている。炒めてペースト状になった野菜が、まるで味噌のように見えるルーの骨格になっている。
スパイスは22種類ほど使っているそうだ。
確かに鼻に抜ける香りは立っている。
ホールからすり潰して使っているそうだが、その効果は充分に出ている。
でも、私はかなり違和感を感じてしまう。何故だろう。
丁寧に作りこまれているのはわかる。
玄米が嫌いなのではない。むしろ食感は好きだ。玄米を使っているために良く噛んで食べるから、旨さをシッカリと味わえる。
野菜の旨味は感じるが、なかのスペシャルカレーほど野菜の甘みが出ていることはない。だからバランスが崩れているなんてことはない。
旨味だって、私が嫌う過剰な旨味が出ているわけじゃない。
店の造りだって、従業員の対応だって、嫌なところは全くない。
なんでだろう。
多分、香りの構成だ。
いわゆるカレーの香りとは違うものを感じる。
どこかで嗅いだことがある香り。
どこだろうと思っていたら、漢方薬屋だった。
香港の漢方薬屋。
カレーの香りと言うと、クミン、クローブ、カルダモン、シナモン、などを思い浮かべる。これらの他にもフェヌグリークと言う一般的にはあまり知られていない豆科のスパイスがある。カレー粉の香りの主要なものはこのフェヌグリークで、有名ではないくせにこの香りを初めて嗅ぐと言う人はいないだろう。
そう言った一般的にカレーをイメージしたときに思い出す香りの構成と、この店のオリジナルカレーの香りの構成は違ったものだ。
八角、ディル、セロリなどの香りの要素が強い。
インドカレーではあまり使用分量が多くない、ハーブ類やウェットスパイスの系統を強く感じ、八角で中華料理っぽいイメージを植えつけられるから漢方薬屋を思い出すのかも知れない。
煎じ薬の香り。
これが邪魔をする。
美味しくないのかと問われれば、そんなことは全くないと答える。
でも私の好みとは全く違う方向を目指しているカレー。
ここまで違う方向を向いているのに美味しいと思わせること自体がすごいと変な感心の仕方をしてしまうが、好みの問題ですと片付けられてしまうことではないような気がする。
こんなことは大きなお世話だが、もしも私が店からもっと頻繁に来て貰うためにはどうすれば良いかと聞かれるとする。
私の答えは、きっと味と香りの構成を全く変えたものになるだろう。
どうせブイヨンを使うのならば、野菜の甘みと旨味を前面に出すブイヨンではなく、骨の味を感じられるブイヨンに。
シッカリとしたコクを加えるためにバターなどの動物性油脂も加える。
すべて玄米ではなく白米との混合に。
つまり私はこのカレーに健康志向を感じすぎていると言う事なのだ。
このカレーは美味しいし、変な表現だが、驚くほど胃にもたれない。
食後感が非常に軽やかだ。
胃が軽くなるカレー。
まさに薬膳カレー。
女性が好きなカレーなのではなかろうか。
私のようなオヤジよりも女性にこそ食べてもらいたいカレーなのだ。
でも私は必要以上にカレーに薬効を求めていないのだな、きっと。
それよりは脳内モルヒネが出まくるような美味しさを求めている。
美味しさと健康のバランス感覚が、この店と私では違うと言うことだ。
だから美味しいのに違和感がある。
なんか食べながらいろいろなことを思った。
私にとっては不思議なカレーでした。
店主は自ら茨の道を進んでいる。
既に評判となっていた初代を超えるものを作らなければいけない。
しかも食べたことがないのに、初代が目指したのと同じ方向で。
これは大変なことだと思います。
そんな店主には安易な褒め言葉は不必要でしょう。
今回は思ったことをそのまま書きました。

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