先日、若いバーテンダーから、ドジョウを食べたことがあるかと尋ねられた。
自慢じゃないがそれなりの歳なので、ドジョウを食べたことは一度や二度ではありません。
大好きと言うほどでもないので、四六時中食べる訳じゃない。
前回食べてから、もう既に4〜5年経とうか。
一緒に食べに行きませんかと誘われたので、乗ることにした。
場所はどこだと聞くと、番長がメチャ旨と言ってた店だが名前は失念したという。
番長のニックネームを持つ友人のことだから、森下じゃないかと言うとその辺りの店だったと思うとのこと。こりゃ、伊せ喜で決まりだ。
浅草には駒形どぜう、飯田屋などの老舗がある。
そして墨東でどじょうと言えば、深川高橋の伊せ喜。
明治20年創業、100年を超える歴史のある
伊せ喜は有名だ。
ちなみに深川高橋は『ふかがわ たかばし』と読む。『たかはし』ではない。
全然関係ないけど、永代橋を渡ったところから新川に抜ける道に橋があり、その橋の名前『高橋』も『たかばし』と読むと聞いたなぁ。

目的の店は、やはり伊せ喜であった。
この店に来たのは久しぶりだ。
何年ぶりだろうか、忘れてしまうぐらい。
夏の魚と言えば長いもの。
ウナギ、ハモ、穴子。
そしてドジョウ。
ビタミンが豊富で夏バテ防止だなんて言われる。
鰻の旬が本当に夏なのかどうかは疑問なのだけれど、他の魚は夏が旬で旨い時期。
昔はドジョウなんて田舎に行くと、田んぼで獲ってそのまま晩飯のドジョウ汁になったもんだ。ところが今は田んぼに行く、機会なんかなくなってしまった。
若い人はドジョウなんていうと気味悪がって食べないのだろうか。
店の中は年寄りばかり。歩くのも大変そうなぐらいの老夫婦が、壁にもたれながら鍋をつつく姿は見ていてホンワカした気分になる。
江戸情緒、顕在なりと言う感じだ。


まずは浅漬けと定番の柳川。これでビール。
柳川が旨いのはもちろんなんですが、この浅漬けがまた好い漬かり具合。
やや甘めの柳川でビールを飲み、浅漬けでさっぱりと口を締める。
堪りません。
柳川と言う名前は初めてこの料理を出した料理屋の名に由来するのだそうですね。ドジョウと笹がき牛蒡と言うのは絶妙の組合せ。味醂の効いた割り下で卵とじにすると味醂の甘みで卵の味が膨らみ、何とも言いようがない旨さ。
江戸時代にこの料理を考案した料理屋に感謝です。


柳川が終わる頃には、通称『丸』が出てきます。
丸と言うのは丸鍋のことで、ドジョウをまるごと食べるために既に充分に下拵えしてあります。
まるごと味わう方がドジョウの全てを堪能できるのは当たり前。そのために客の前に出てくる前段階で、既に数時間をかけて骨まで柔らかく煮込んでいる。
柳川と違って味醂の効いた割り下ではなく出汁の効いたツユなので、ドジョウの味がストレートに伝わってくる。
丸には牛蒡でなくネギ。これでもかとばかりにネギを乗せるほうが美味しい。
既に充分煮込んであるので、温まる程度ですぐ食べる。
ここから火を通し過ぎると、ドジョウがボロボロに崩れて食べにくい。
鉄鍋の中が温まったら小皿に取り、七味をかけて頂く。
頭も背骨も、口の中でホロリと崩れる。
もちろんドジョウは泥臭くなんかありません。

ドジョウを頭からまるごと食べるのには少し抵抗があるという人には『ぬき』が良いですね。
ぬきはドジョウを開いて骨を抜いたもの。
これを牛蒡と焼き豆腐と共に割り下で煮て、すき焼きのように卵を絡めて食べる。
丸のようにドジョウそのものを食べると言う醍醐味はありませんが、初めての人にも抵抗なく食べられる。
割り下に卵とくれば柳川ですが、卵とじにするのではなく卵を絡めて食べるんです。
まさにドジョウのすき焼き。
ぬきにはネギではなく牛蒡の相性良い。
卵か絡むためでしょうか。

ぬきを食べ終わったら、丸い鉄鍋の中の割り下に残っているネギや牛蒡を大胆に入れる。
そして手元の小鉢の卵を入れてしまって、卵とじにする。
ネギのシャキッとした歯ざわりが残らないと美味しくないし、卵のふわふわ感がなくなるほど固くしてしまうもの美味しくない。
割り下で味のついたふわふわ卵を小鉢にすくって食べる。
出汁巻き卵や寿司屋の玉子焼きで酒を飲むのも良いけど、この『勝手に卵とじ』もなかなかいけますよ。
日本酒がすすみます。
この勝手に卵とじをする人はほとんどいないですね。
行儀の良いもんじゃありませんから。
でも旨いんですよ。
行かれたら是非試してみてください。
伊せ喜はだてに120年も続いている店じゃない。
これらの『丸』や『ぬき』が上手いのは当たり前。
他にも鯉や鯰なんかも出す。
そんな中で結構お勧めなのが、写真のうなぎハム。
長々とドジョウについて書いてしまいましたが、今日はこれを書くつもりだった。
燻香がしませんから、本式のハムのように燻製にしたものではないような気がします。燻製にかけたとしてもかなり浅いはず。開いた鰻を巻いて調味液に漬けたものかも。
味自体は非常にアッサリとした塩味だけど、脂が乗った鰻だなと感じさせるネットリとした舌触りの部分が旨い。
これ、かなりいけます。
でもこれがビールにも日本酒にも合う、丁度良い塩加減。
そしてしつこくない旨味は酒でサラリと流されて、なんとも潔い感じ。
ビールを気持ちよく飲ませてくれる。
日本酒では旨味が膨らむ。
次からは浅漬け&うなぎハムでスタートしよう。
ビールで夏の暑さから逃れたら、ぬきと丸で昼酒がいい。
夏なのに鍋。
1人ずつにくれる団扇であおぎながら、ドジョウをつつく。
美味しくて、楽しい昼下がり。

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