何かの拍子で夕食を取れずに9時頃になる。
最近悩むんです。
あと1時間程してから
シチューの店ながしまに行こうか、このまま家に帰って軽いものだけ食べようか。
体のことを考えれば9時以降は何も食べない方が良い。
10時過ぎてからしっかりと食べるのは負担が大きいんですよね。
翌朝がつらいときがあるのは、もう若くない証拠です。
それでもたまに行ってしまうんです。
いろいろと気になるメニューがあるし、店の外観に反して結構美味しかったりする。
パッと見は偏屈そうな店主だけど、話してみると案外と人なつこい性格。
1人で店に入っても退屈することはないんです。
撮り直しに行こうかと思うくらい写真が余りにも好くないのですが、ポークザンガラはこれしか撮ってなかった。
今度撮り直してきます。
前回のレポートにも書いたけど、ザンガラとはジプシー風のこと。
放浪の民の煮込み料理が発祥らしいと言う話を聞いたことがある。
肉を焼いたときの鍋にこびりついた旨味を出汁でこそげ落とし、肉汁と共にトマトで煮込む。
ハムや燻製肉を加えて風味を付ける。
はじめは水で煮ていたのでしょうが、水の代わりにフォンを使うと旨味が増すのは言うまでもない。
フォン・ド・ヴォーは牛の骨とスネ肉などの脂の少ない部位を、オーブンで焼き色をつけてから香味野菜と共に長時間煮込む。牛と野菜の旨味が凝縮した出汁。
肉を焼いたときに出た肉汁と鍋についた旨味をこのフォンで延ばすのですから、美味しくないはずがありません。
ここにトマトを加える。
トマトには昆布出汁の旨味と同じグルタミン酸が豊富。同じ重さの昆布よりも1.5倍ぐらいのグルタミン酸を含んでいるらしい。旨味の詰まった野菜なんです。
日本では生食が主ですが、イタリアンのように過熱して食べると美味しさが増すのは皆さんご存知の通り。
更に加工肉です。ホテルなどでは牛タンの燻製肉を使いますが、何もそう決まったものではなく、ハムやベーコンを使うこともある。どのような風味や旨味を加えたいのか、料理人次第で決まってくる。煮込み材料としてだけでなく、食べたときにもメインの具材の肉とは違った旨さと食感を与えてくれます。
加工肉を加える以外は、肉の煮込み料理と似ています。
肉に小麦粉を振り掛けて炒めるときに香ばしさを出すとか、煮込むときに赤ワインを加えるとか、違う工程は色々あるんですが肉を焼いてトマトを加えて煮込むのが基本。
似てますよね。
フォンとは出汁ですが、旨味を抽出した液体として考えれば煮込み料理の汁もよく出汁の出た液体です。
何が言いたいのかと言うと、つまりザンガラソースを作る時に肉の焼き汁に牛肉の煮込みの汁を加えても理に適っていると言うことです。
ながしまのポークザンガラは、豚の薄切りをタマネギと一緒に焼きつけた後にビーフシチューで煮込んで作られます。マッシュルーム、ハムを加えて仕上げ。
ながしまのビーフシチューはラグーですから、トロミのついたデミグラスじゃなくて牛肉の煮込み。だからシチューで煮込んでも、これはこれで理に適っている。
ポークなのにビーフシチューを使うのは疑問だと思われる方もいるかも知れません。
mymyzuさんがコメントしてくれた通り、チキンソテーにもビーフシチューが使われています。
メニューにもビーフシチュー味と書いてあるものがいくつかある。
そんな店に旨いものあるのかと言う方がいるかもしれませんが、これはそれほど問題じゃない。
店の外観を見て、なんでもビーフシチュー味の店だと聞くと、途端にたいした事ない店と思ってしまいがちです。牛も豚も鶏もみんな牛の出汁で料理するなんて書くと手抜きのように感じる人もいるかも知れないですね。
でも私はそうでもないと思っています。
もちろん牛肉料理には牛、豚肉には豚、鳥肉には鳥の出汁を使い分けた方が相性が良いのは当たり前です。でも実際は別の旨味を加えたかったり、重厚な旨味の素材をアッサリとした旨味で調理したかったりして、別の旨味の出汁を使うことは多い。
それにコストとの絡みで調理に使うメインの出汁を1種類にしている店もたくさんあります。
フレンチの場合だってフォン・ド・ヴォライユ、鶏ガラの出汁を使う店が多い。
予約が取れないと話題になったレストラン・キノシタだってこのケース。
四谷の北島亭だって、基本はフォン・ド・ヴォライユだったと思います。
こう言う美味しいと評判の実力派有名店だってそうなんです。
その代わりフォンの使い方を考えて、何でもかんでも鶏の味になるなんてことはない。
個人店で数種類のフォンを引いている店もありますが、それだけコストがかかるので値段は随分と高くなる。いわゆる高級店ですね。
ながしまはビーフシチューをフォンのように使っているのでしょう。
キノシタなどのフランス料理店はクセがなく旨味のある鶏出汁だからこその特性を活かしているのですが、ながしまは店のメインであるビーフシチューを軸にしている点が違う。
もちろんフォンはそれ自体でスープとして飲めるように味を完成させたものじゃない。だからこそ出汁なのであって、その点でビーフシチューをフォンのように使うと言うことは大きく外れてしまっている。それにビーフシチューをフォンとして使うと、味付けの完成したものを加えることになるので料理の展開は限定されてしまいます。
しかし限られた時間、労力、コストを考えると、店主にとってはそれが最善の方法だったのだと想像します。
手抜きと言われればそうかも知れないが、一皿に2000円も3000円も払う店じゃないんですから。この点が一番のポイントですかね。
だから私は充分だと思うんです。
それでも持ち上げすぎかな・・・
でも、ただの手抜きではないのはポークシチューやチキンカツを見れば分かります。
ポークザンガラはビーフシチューをベースに味を作りますが、ポークシチューはクリーミーに仕上げてある真っ白なシチューです。ビーフとは全くの別物。
この3色チキンカツはキエフ風チキンカツの改良版。
中身はニンニクバター、チーズ、チョコレート。
普通のキエフ風は鶏肉に切込みを入れてその中にバターとニンニク、ハーブを入れて揚げたもので、だいたい鶏の胸肉の形のままカツとして出てくる。
ところがご覧の通りのボール型です。
これは肉団子のようにしたのではありません。
肉を開いて、詰め物を巻き込んでボール型にしてある。
よく見ると硬球の縫い目のように、色の濃くなったスジのような線が見えるでしょ。
そこが重なっている部分です。
開いた肉を丸めただけじゃ、ボールにはなりません。
合わせ目を貼り付けてあるのではないでしょうから、織り込んであるはず。
織り込むためには、開いた時点での肉の形状を工夫しないと旨く織り込めないはず。
つまり肉の切り方にポイントがある。
聞いてみたら『な〜んだ』と言うようなコロンブスの卵的な仕事なのかもしれないけれど、ながしまの店主なりの工夫が見て取れる。
こういう店主の顔が見えるというか、他の店との違いがある店って好きなんですよ。
オムライスが食べたいなと思ったときに、あの店に行こうか、この店にしようかと考える。あの店にはあの店のオムライス。こっちの店とは違う。今日の気分はどっちのオムライスかな、なんていう決め方をしたいじゃないですか。
今は業務用冷凍食品が発達していて、それだけでレストランが開けるほどになっている。
安いし、当たりハズレがない。いつでも同じ味が楽しめる。
それはそれで良いことですが、それだけじゃつまらないです。
その店なりの一皿が楽しめると言う点で、ながしまには惹かれるものがあります。
居酒屋のような外観と、妙にずれた営業時間には困ったものだけど。
まぁ、だからこそ利用しやすいと言う人もいるのでしょうね。

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