桜が満開になると雨が降りますね。
去年もそうだったような気がします。
でも確実に春なんですね。
久しぶりに時間があったので築地に行ったら、魚屋に並ぶ魚は知らないうちに春になっていました。
買ってきたのはサゴシと飯蛸。
両方とも今が旬。
魚偏に春と書いて『サワラ』。青魚なのに身は白い。
関東では正月開けの寒サワラが好まれ、関西では産卵前の春サワラを求めます。
寒サワラは非常に脂の乗った状態で、刺身にするとまるでマグロのよう。でも水分量が他の魚とくらべて多いので、ちょっと乱暴に扱うとすぐに身割れしてしまいます。関西では味噌や粕につけて身を締めてから焼き物にすることが多く、旬は夏場の産卵を控えた春とされています。
地方によって食べ方が違い、食べ方が違うと旬も違うというのは面白いですよね。
サゴシはサワラの幼魚。50cmぐらいまでのサワラをサゴシ(サゴチ)といいます。
サワラ同様、簡単に身割れしてしまうので、刺身にしたいなら街の魚屋で買うときは帰宅途中で乱暴に扱わないように。築地の中卸ではたいていの魚は尻尾を持って運びますが、サワラだけは板に乗せて両手で捧げ持つようにするくらいですから。
このサゴシを幽庵焼にしました。
時間があったのでただ焼くだけではなく、ちょっと手をかけたかったんです。
ただの漬け焼きや照焼きでも良かったんですが、魚焼グリルを使わずに串を打って焼きたくなった。
幽庵焼は同量の酒と味醂、濃口醤油を合せた幽庵地という漬け汁に漬け込んでから焼くだけなのですが、思いのほか時間がかかります。
青魚なので、3枚に下ろしてから両面に塩を降って締める。
締めている間はまな板の片方に何か噛ませて、尾の方を下にして縦に並べて傾けておく。30〜40分ほどすると身が汗をかくだけでなく、尾の方から汁が流れたような跡が出来る。これで身が締まると同時に臭みが抜けるわけです。
締めたサゴシは流水で塩気とヌメリを流し、5cmほどの切り身にします。
その切り身を幽庵地に20分ほど漬け込む。
ここまでで1時間以上かかってしまう。3枚に下ろして水洗いをするところから始めると1時間半は経っているかな。たいした手間はかからないのに、時間だけはかかります。
漬けあがった切り身から布巾で水気を取ったら串打ち。
そのまま焼いてもいいのですが、身が柔らかいのでまな板に置くとペッタリとしてしまうくらいの魚です。だから串を打ってふっくらとした形を整えるわけです。
平打ちと言って、腹側から背にかけて2本の串を平行に打つ。そのときに、皮目が弧を描くように身を寄せながら串を打つのですが、言葉で説明するのは難しい。
串を打ったら、皮目に幾筋か浅い化粧包丁を入れておきます。
さてここから焼きに入るわけですが、当然食べるときに表になる皮目から。
本当は炭で焼きたいのですが、家なのでガスしかありません。
ガスで焼くのは難しい。炭火なら輻射熱の特性を活かして遠火の強火となるのですが、ガスだとそうはいきません。いくら炭火焼に近くなるセラミック製の魚焼き器を使ってもなかなか上手くいかない。
串を傾けながら、万遍なく皮目に火が当たるようにするのは結構面倒でした。
皮目を焼いて焦げ目が付いてきたら、身の方を焼く。
仕上げとして幽庵地をかけ回し、火にかざして乾かすように味を乗せていくこと3回。
やっとこさ、出来上がり。
個人的には満足なんですが、ただの焼魚にしか見えないですかね。(笑)
漬け込み具合もよくて、我ながらかなり美味しく出来ました。
やっぱりこの時季のサゴシは旨いね。
甘酢漬けをあしらったりすれば完璧なんですが、そこまでの時間はありませんでした。
せめてシシトウかなにか焼けばよかったかな。
でも見る人が見れば雑な仕事だとすぐに分かっちゃいます。
何処がって、串を抜いた跡がです。
サゴシの焼き上がりと飯蛸の煮上がりが重なっちゃって、慎重に串を抜けなかったんです。
これでは人様にはお出しできない。
でも今回は良しとします。
自分で食べるんだし、久しぶりに時間をかけて焼き物が楽しめたんですから。
時間は掛かるし肝心の焼きではガスコンロと苦闘したけど、結構楽しかった。
ちょっとしたストレス発散になりました。
漬け込み等をしている合間に、飯蛸を煮付けてました。
卵をいっぱい持った飯蛸は、柔らかく煮付けると美味しい。
頭の中の飯粒のような卵の食感は快感です。
飯蛸は墨袋を取った後、まるごと煮付けてもいいんですが、今回は足と頭を別々に煮付けました。
卵を抱いた頭の部分とゲソの部分の味を変えることが出来るのが1つの理由。
頭は比較的アッサリとして、ゲソの方は味濃く甘みも増した方が好きなもので。
それから頭とゲソを切り離したときに口ばしを簡単に切り取ることが出来るがもう1つの理由です。
頭、目玉、ゲソ(本当は胴、頭、ゲソ)に切り分けると口ばしはコロンと取れる。
口ばしは硬いから嫌いなんです。
今年初めての飯蛸の煮付けは旨かった。
気が付いたら全部食べた後で、写真を撮り忘れました。
飯蛸も塩揉みしてヌメリを取ったり、気を付けながら墨袋を抜いたりと、ちょっとした手間はかかります。ですが今が美味しい時季ですし、慣れればそれほど面倒でもない。季節を感じながら美味しく食べると言う贅沢のためなら、それほど苦になりません。
サゴシの幽庵焼と飯蛸の煮付け。
これに菜の花のお浸しとキュウリの塩揉みが晩のおかずです。
質素だけれど、食卓は旬の物ばかり。
なんとなく嬉しい。
料理屋に行けば時間も手間もかからずに同じような物が食べられるのですが、たまには自分で作るのも良いもんです。

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