彼岸の中日に行けなかったので今日墓参りをすませてきました。
バタバタと午前中を過ごし、菩提寺に着いたのは昼過ぎ。
腹は減ったが墓参りを先にすませないことには落ち着かない。
関西では墓に供えるのはシキミだが、東京では花も添える。
だから普段は地味な墓地が、彼岸になると綺麗な花で飾られる。
墓地が華やぐというのも変な話なのだが、それぞれの家族が先祖に会いに来ている証拠だ。
昼過ぎについたので既に周りの墓はみな綺麗に掃除を済ませ花も添えられている。
遅れたことを心の中で詫びながら、墓をきれいに掃除してお参りをすます。
住職とも久方ぶりに挨拶を交わした。
寺を出たときには既に1時を回っていた。
残念ながら近くにはたいして旨いものを出す店が無い。
こうなると休日に通しでやっている店を求めて繁華街に出るほかない。
久しぶりに浅草にでも行こうということになった。
休日の浅草は混んでました。
相変わらず小汚いところも目立つ繁華街ではありますが、浅草には浅草の良さがある。
その良さを残している店というのは表通りには少なくなってしまった。
何か食べるなら裏通りに限る。
久しぶりというのもあって行きたい店は色々ある。食べたいものもたくさんある。
『ここは行き当たりばったりで目に付いた店に入ってみよう』なんて言っていたのだが、実際には『あの店は嫌だ、今日はこれは食べたくない』などと家族から注文がつく。

結局落ちついたのは鰻屋の小柳。
仲見世の裏通り、浅草公会堂の裏手に位置する老舗です。住所は
東京都台東区浅草1−29−11。
鰻なら色川か初小川にまで足を延ばそうかとも思ったが、雨もぱらついていたので新仲見世のアーケードから近い小柳に決めたのでした。
この店がNHKの朝の連続ドラマのモデルになっていたと知ったのは、ドラマが終わってずいぶんと時が経ってから。言われてみればというシーンが確かに多かった。ドラマのモデルになるくらいだからと言って超高級鰻料理が出てくるかというとちょっと違う。
浅草の鰻屋ですから、この店の鰻は庶民の鰻。
普通の人が食べられる値段で、しかも美味しい。
頼めばサッサと調理してスッと出てくる。
一気にうな重を掻き込んでお勘定がすんだらトットと出て行く。
そんな店です。
うな重は竹1470円と松2100円の2種類のみ。
この値段は嬉しいですよ。
家族で行くには重宝します。
高い方で税抜き2000円ですから。
小ぶりな鰻ではありますが、柔らかく焼き上げられています。
ふっくらとしているというよりも柔らかいという言葉が合っていると思いますが、それは決してクタクタに蒸しあげられているのとは違います。口に含んだ時にふっくらとした身がほぐれるのとは違い、舌の上で柔らかい身が溶けていく感じ。
実物よりも写真の方が焦げ目がきつく見えますので、実際にお重の蓋を開けたときには色目の良さを楽しめると思います。
タレは醤油の風味を生かした適度な甘さ。
ご飯は硬めでタレとの相性も良い。
そしてタレの量とご飯の量が丁度良い具合。
甘いタレでシャバシャバになっていることもなく、タレが足りずに卓上据付のタレをかけることもない。バランスよく食べ切ることが出来ます。
良く焼いてくれた鰻は飲み物だという友人がいますが、正に飲み込むように食べられるうな重。


肝吸いは別に頼みます。
三つ葉の香りは薄いし出汁の効き方も半端な感じはしますが、そうは言っても105円。それでもきちんと肝は入っている。この値段なら文句なんか言うはずがない。
玉子焼きは出汁がたっぷりと入った焼き方。
こちらは出汁が強く主張しない分、卵の風味が活きていて好きです。
甘みが勝っていると感じる人もいるかもしれませんが、私はこのくらいの甘みを持った玉子焼きも良いと思う。口当たりも良いし美味しい。

ちょっと驚いたのは焼き鳥。この店で焼き鳥を頼んだのは初めてでしたが、一口食べてビックリです。
タレが甘過ぎる。まるでみたらし団子のような甘みの強いタレが何を食べているのか分からなくしている。鶏肉が蒸してあるのか焼いてあるのかすら判別できなくなるぐらい強いタレ。
ここまで甘い焼き鳥は初めてかも。
同行者のたっての希望がない限り、次回からは頼まないでしょう。
だってこれじゃビールのつまみにはならないもの。
この後に湯葉刺しを食べたのですが、大豆の仄かな甘みなんかどこかに飛ばされてしまった。

ビールといえば、この店の生ビールはエビスです。
そこまでは良いのですが、これが実に悲しかった。
右の写真は飲みかけじゃありませんよ。
これが出てきたばっかりのエビスの生ビール。
悲しいでしょ。
文句を言う気にもならない。
生ビールは頼む人が少ないとロスが大きい商品なのですが、少し涼しくなったとは言え今日ぐらいの陽気なら頼む人はたくさんいる。だからこのビールの注ぎ方は、儲けを厚くしようとかロスを少なくしようとかいう理由でこうなったのではないでしょう。
もともとそんなセコイ店じゃない。
しばし考えたのですが、思い当たる理由は一つだけ。
ビールに対する愛がない。
生ビールを美味しく飲んでもらおうという気がない。
店の名誉のために言いますが、この店は決してケチなことをするような店ではありません。
それはうな重にも肝吸いの値段にも表れている。
一階のカウンターに座れば、一心不乱に鰻を裂き続ける人、蒸し続ける人、焼き手が見られます。厨房が丸見えなんですから。
そこにはケチな了見なんか入り込むすき間はないと思わせるだけの一生懸命さがある。
でもビールを注ぐ担当に、ビールに対する愛情が欠如していたのでしょう。
美味しく飲んでもらおうという気持ちがなかったのでしょう。
私がたまたま、そんな日に当たってしまったのでしょう。
そうとしか思えない。
だって店全体がおかしいとは思えないんだもの。
ビールと焼き鳥には落胆しましたが、その程度のことでこの店に行かなくなることはありません。
だって肝心の鰻は充分美味しいんですから。
そして安いんですから。
竹のうな重に肝吸いつけて1575円。
これで柔らかく蒸して焼いた鰻が食べられる。
パックされた鰻を温めて出してくるようなチェーン店と比べる気にもならない。
文句があるなら焼き鳥を頼まず、ビールはビンにすれば良いのだ。
そうすればどこにも文句なんかつかないですよ。
美味しいものは玉子焼きのほかにもまだあるから、酒のツマミは心配無用。
久しぶりの小柳は喜ばされたり、ガッカリしたり。
でも良いところと残念なところの落差が極端に大きくて、逆になんだか楽しい食事でした。
そんなおかしな印象を持つのも、ここが変な店のはずはないと思い込ませるうな重があるからですね。

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