錦糸町に用事があったので、一度伺いたかった東陽町にあるホテルイースト21東京の広東料理『
桃園』に行ってみた。
タクシーをエントランスにつけると、ベルボーイが飛び出してくる。運転手の開けたドアに手を添え、もう片方は頭がぶつからないようにドアの上部に。一流ホテルでは当たり前の光景だが、オークラ系列であることは知っていたが、『どうせビジネスホテルに毛が生えたものだろう』と思っていた私は驚いた。
桃園の場所を確認する為に案内の前に立つと、音もなく近づいてきた従業員が『ご案内いたしましょうか?』と聞いてくる。
桃園の入口の10メートルほど手前で目が合ったマネージャーは、我々が歩いてくる間、前傾姿勢を保ちお辞儀をして迎えてくれた。
同行の女性がソファー掛けの奥に入る時にテーブルを引く仕草。
話しながら腰を落とす私に合わせて、椅子を滑らすタイミング。
『薬を飲むので』と言うと出てくるのは、やや暖かい白湯。
久しぶりに『ホテルを使っている』と言う気にさせてくれる。客を注視しているのに、決して出過ぎた真似はしない。ひたすら黒子となる。
こういう場所では、壁に向かって座る私が、フロアの誰かが気がつくのを待って声を掛ける必要はない。右手を上げるだけで人が飛んで来てくれる。
すべてが心地良い。
メニューを見ると値段も良い値段だね。
海鮮焼きそばが2700円ほど。坦々麺でも1700円ぐらいか。それでも、この心地良さには代えがたい。どうせランチだし、そんなに頼むわけじゃないし・・・
料理は素晴らしいです。頼んだものは坦々麺、五目焼きそば、ワンタンスープと点心2点のセット、蒸しエビ餃子。
坦々麺はラー油が浮かぶ物ではなく、胡麻だれの中に粉唐辛子を良く練りこんだタイプのもので、胡麻の良い香りに惹かれて一気に食べると後から辛味が押し寄せてくる。典型的な四川料理の坦々麺ではないが、胡麻を活かして食べさせる。
五目焼きそばのアンが素晴らしい。アンに使われているスープが凄い。金と暇を思いっきり掛けて取ったスープだ。アッサリしているのに旨味が深い。旨味が口にまとわりつくことなく、具材とともにスッと引いていく。その後に残るのは具材の美味しさ。
具材の火の入れ方も素晴らしい。ほとんど油通しに近いぐらいではないかと思われる。エビ、ホタテ、イカ、空心菜、レバー、筍、ニンジン、などがそれぞれ違う火の入れ方で美味さが引き出されている。大振りな切り方で具材を活かそうとしている。ホタテの甘味、エビの香り、野菜の歯ざわり、すべてが活きている。
ワンタンスープは醤油味が勝ち、スープとしては今ひとつ。しかし、ワンタンは美味しかった。皮のフルフルとした食感。中身のエビ。言うことないです。
蒸しエビ餃子は3つしかないのに1150円。高いですね。でも、こんなにプリップリッとした芝エビは久しぶりです。米で作った皮も良い。これを食べたら、家で冷凍の蒸しエビ餃子を食べる気なんか起こらない。
3人の昼飯代が7000円。昼としては高いですね。
それでもホテルのサービスの心地良さに対価を払う価値を見出せれば、もともとの料理の質が非常に高いだけに、コストパフォーマンスは非常によろしい。私は満足できました。
ついでに言うと、料理長の中川氏は中国料理の世界大会で3位に入賞し、かつての料理の鉄人にも出演した実力派です。他のテーブルを見ていても、作る料理は総じて洗練されたホテルの中華料理の範疇です。しかし、パワフルさは失われていない。
トゥーランドットの
脇屋氏の料理のように、不必要な飾り立てをするヌーベルシノワ(新中国料理)ではない。
ホテルオークラの『
桃花林』でも感じる、洗練の中に活かされた野趣がある。
サービスも内装も余計なものはいらないから、こういう料理を1200円ぐらいでランチで出してくれる店はないもんでしょうか。

投票してください。

5