
西葛西とは全く関係ない話を一つ。
狐野扶実子と言う料理人をご存知でしょうか。
活動拠点はパリ。
自分のレストランは持っていません。
それなのに世界中で最も有名な日本人のフレンチ料理人と言っても良いぐらいの活躍。
彼女は出張料理人です。
結婚直後にパリに渡り、主婦業の傍ら『ル・コルドンブルー』と言う料理学校の最高峰に通う。
料理部門上級コース、製菓部門上級コースをともに主席で卒業。
コルドンブルー主席卒業と言うのは物凄いことで、この時点で三ツ星レストランから引く手あまただったはず。料理人としての将来を約束されたようなものです。
しかし彼女はレストランに『就職』することをせず、見習の道を歩きます。
就労ビザが無いと言うこともあったと思いますが、就職するつもりであればレストラン側の協力でなんとでもなったはず。でも、彼女はスタージュと呼ばれる見習へ。見習だから、最初の仕事は掃除です。コルドンブルーの主席が掃除人ですよ。こんなの聞いたことが無い。
見習として入った先は『アルページュ』と言う三ツ星レストラン。
しかし自分の経歴とか学校からの紹介で入ったわけではありません。
自分で食べに行った時に『
すごく美味しい。ここの料理に関わってみたい』と思ったので、自分からマネージャーに『スタージュとして働かせて欲しい』と申し出ているそうです。話を聞いたマネージャーも驚いたでしょうね。コルドンブルーの主席がスタージュとして働かせてくれと言うのですから。
その後、就労ビザを取得して正式採用となる。
それから僅か2年でスーシェフにまで上り詰める。スーシェフと言うのはそのレストランの2番手です。副料理長。その上は世界的に有名な三ツ星シェフだけ。
その料理長がレストランを離れることになります。
その時にオーナーが後任を打診したのは、他の店からの引抜ではなく、日本人スーシェフである狐野扶実子さんでした。
2002年に、広尾の『
ひらまつ』がパリに逆上陸して4ヶ月で日本人オーナーシェフとして初めての一つ星に輝きました。
フレンチ好きにとっては大ニュースでした。
しかしその2年前に、雇われとは言え、狐野扶実子さんは日本人初の三ツ星シェフになれる機会に恵まれたのです。
ところが彼女はオーナーの申し出を断り、レストランを辞めてしまいます。
総料理長の仕事とは料理だけでなく、調理場全体の指揮者のようなマネージメントの仕事がほとんどになってきます。彼女がやりたかったのはマネージではなく、彼女がなりたかったのは星つきシェフでもない。
彼女は料理が作りたかった。
『
私を支えているのは料理。落ち込んだ時も、淋しい時も、料理をしている時は、ただそれだけに集中出来て、料理が出来上がる頃には、自分を取り戻せる。』
そう言い切る彼女は出張料理を始めます。
買出しから仕込み、盛り付け、後片付けまで一人でこなします。仕込みは自宅でするのですが、レストランのような厨房があるわけではなく、2口の電気コンロがあるだけ。そこで野菜を湯がき、肉に火を通し、準備を済ませる。
『
素材と対話し、素材にストレスをかけないようにすれば美味しくできる』
これは天才である狐野さんだからこそなのでしょうが、電気コンロでの仕込みと言うのは驚きです。
あるホームパーティの料理を作っていたとき、パーティの客の中にシラク大統領夫人がいた。出てくる料理があまりにも素晴らしいので、大統領夫人はパーティーのホスト(主催者)に頼んで料理人に引き合わせてもらった。大統領夫人を呼ぶくらいですから、ホストの家に元来雇われていたフランス人の料理人がいたでしょう。しかし出てきたのは小柄な日本女性だった。
この出会いを契機として大統領夫人から別のVIPへと紹介が紹介を呼び、あっという間に世界中に呼ばれる出張料理人となります。
それでも基本姿勢は変わらない。
自分で買出しをし、自分で下ごしらえをし、それを持ってお客の自宅へ行く。
呼ばれれば、世界中どこにでも調理道具を持って行く。
行った先では仕上げ、盛り付け、洗い物、片付けを自分でする。
『
ハクとか要らないもん。どこかのレストランに就職しようと思ってなかったし、日本に帰って、お店を開こうとも思ってなかったし。だから別に、ハクは要らないわけですよ。』
そう語る狐野扶実子さんは素敵だ。
自分のやりたいことがはっきりと分かっている。

右の写真は根セロリのスープです。
狐野扶実子といえば、このスープが話に出てきます。
ベースは根セロリで、それにカボチャとトリュフのスープを合わせる。
3種類のスープがまるで絵を書いたように一皿に納まっている。全部同じ濃度に仕上げてあるので、交じり合うことはない。
それぞれを口にした時、2種類を合わせた時、全てを一緒に味わう時、味の重なりを計算して調理されていると言われています。
一度でいいから味わってみたい料理です。
この写真は
こちらのブログからお借りしてきました。料理を堪能されたとのこと。羨ましい。
狐野扶実子さんに日本企業からもいろんなオファーが来ている事は想像に難くない。それに乗って事業展開すればお金も儲かるでしょう。知名度も上がるでしょう。
しかし彼女はそうしない。
彼女は自分のやりたいことや譲れないことがキチンと把握できている。
素敵な料理人だと思います。

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