西葛西駅南口のマルエツの前にオープンした蕎麦屋。
このブログを読んで頂いている方も、どんな店なのか気になっている様子。

いい感じの入口ですよね。
両国のほそ川をイメージしたような造り。
白い暖簾が清潔感を出してます。
西葛西でこんな店見たことありません。
店内は鰻の寝床のように奥に長く、4人掛けのテーブルが並んでいます。壁には品書きを張り出すような縁取りをしたスペースがあり、酒の肴が並んでいます。
店内にはお手伝いの女性が1人。厨房にはご夫婦が立っています。そばを湯掻くのは奥様が担当され、天麩羅や肴はご主人が用意する。
品書きは
温かい蕎麦 かけ とろろ 揚げもち
冷たい蕎麦 ざる ごま汁 辛味大根 とろろ汁 納豆
他には温・冷ともに江戸前穴子天、鴨、天ぷらが用意されています。

鴨ざるとごま汁です。
鴨ざるの汁は薄めです。鴨抜きのよう。
鴨抜きは鴨南蛮の蕎麦抜きのことです。鴨南蛮から蕎麦を抜いたら、鴨と汁だけです。これをツマミにして酒を飲む。蕎麦屋独特の酒の肴ですね。鴨南蛮の汁の濃度を調節して、吸い物仕立てにする店が多いです。豊川の鴨ざるの汁は鴨南蛮の汁そのものかも知れないと思うくらい。ちょっと珍しいです。
ごま汁の汁は少なめに見えますが、煎り胡麻の風味が強く甘味もあるので、このくらいで丁度良い。この胡麻汁にどっぷりと蕎麦をつけたら、口の中が胡麻の香りだらけになってしまいます。蕎麦を食べる時には少しつけるぐらいが良いので、この量で大丈夫。


江戸前穴子天そばです。
実は天ぷらものを頼んだのはつい最近です。揚げ物は期待出来ないだろうと思い込んでいたので、頼むのが恐かったと言うのが正直なところ。でも、思っていたよりいい揚げ方です。少し驚いた。揚げ色、衣の油切れ、温度。結構まともです。どのように海老を揚げるのか食べてみたくなりました。
ただ、値段の問題があるにせよ、穴子はもう少し選んだほうがいい。さもなくば、下処理か揚げ方を工夫しないと。箸で皮が切れません。
蕎麦自体は手こね手切りの、いわゆる手打とは違うかもしれないと言う印象でした。(間違いかもしれません)
誤解のないように申し添えますが、蕎麦は手打が一番とは思っていません。これにはいろんな考え方や好みがあると思います。たまにある脱サラ蕎麦屋の不揃いな手切りよりは、機械切りのほうがおいしい。不揃いだと一本一本茹で具合が違うからです。
宝町にある
藪伊豆は手捏ね機械切りです。捏ねの水回しは大切な工程だが、その後は如何に早く釜前(茹で)に持っていくかが勝負だという考え方であれば、短時間で均一に切れる機械切りは合理的だと言う訳です。
去年は台風が多かった。そのせいで今年の国産の蕎麦粉は収穫量が少ないので高いです。良質の玄蕎麦(蕎麦の実)ほど高いです。こんな年に開店した豊川は、ある意味で不運かもしれない。そんな状況で、少々量は少ないとは言え、ざるそばが550円というのは高いとは思わない。でも、茹で時間の問題か、茹でたあとの締め方の問題か、柔らかめなのは少し気になる。
汁が甘めと言うのも気になる。
味醂を効かせる時は出汁の具合がよくないときが多い。
品書きの中にかき玉のような技物がない。
最近は木の葉蕎麦やかき玉なんか頼む人が少なくなったので品書きから消えています。これは何も豊川に限ったことではありませんから、このレポートで敢えて言う事ではないかも知れません。
餡かけのかき玉は実は凄く技術が要るんです。技術がないと卵がダマになってしまう。かき玉と卵とじは全く別物ですよ。糸のように卵を回し散らすのは難しいんです。
皆さん、結構辛口のコメントだと思うでしょ。
そうなんです。正直に言うと、気に入らないところが多々ある。
鴨ざるとごま汁の写真を見てどう思います?
私はすごく違和感がある。
何で汁が右側にあるのよ。
通常、右利きの人が多いので、汁は箸を持つ手の反対側の左側に置くものです。
なんと細かい、とお思いですか?
でもね、こう言うことは基本だと思うのです。時計回りに90度回転させるべきです。それが蕎麦屋の定法です。定法は長年の歴史の中で生まれたもの。食べ易いように供するべきだと思います。
だったら、何で何回も行くのよ?!
そこなんですよ!
いろいろと注文つけているようですが、よく読んでみてください。
実は豊川特有の問題なんてそんなにない。細かいことばかり。一つ、二つを除いて、『なんかちょっと気に入らないな』と言う程度の話なんですね。蕎麦はいわな屋やひら野にはかなわないが、それはもっとうまい蕎麦があるというだけのこと。豊川の蕎麦が悪いと言うのとは全く違う、ただの比較論。
そういうことより、もっと気になることがあるんです。
この店に初めて伺ったときに気がつきました。
厨房の中にいる主人に見覚えがある。
西葛西の南側に住んでいる人はすぐ気付くと思います。店主は辛口映画評論でお馴染みの井筒監督のような風貌。そうです。先日閉店したお好み焼き屋、丁家の店主なのです。
丁家には家族共々お世話になりました。だけど私は直接話したことはないので、別に親しくもありません。美味しくもなけりゃ、2度と来ません。でも、蕎麦はそこそこ。それに、印象に残るのは釜前を担当されている奥さんの一生懸命な姿です。
丁家の店主の前身は知りません。蕎麦職人だったのか、板前だったのか、はたまたサラリーマンだったのか。そんなことはどうでも良いことです。とにかく今、一生懸命に蕎麦屋を創りあげようとしているのを感じます。


左は開店当初のツマミです。右はほぼ一月後。
増えてるでしょ。
私が伺った、初回、二回目、三回目。そばつゆの味が全て違いました。その後一定してきたように思いますが、たまに辛口だったりする。蕎麦の茹で具合も違いました。
試行錯誤してるんだと思います。
どうやってお客を呼べる蕎麦屋になろうか考えている。適当に日銭を稼ぐだけなら、こう言うようにはならないと思うんです。
丁家が閉店してからあまり日は経っていませんが、閉店を決意してからも日が経っていないとは限りません。その間、修行してたかもしれない。飲食のド素人ではないわけで、店主なりの考えがあったのだと思います。
店を出すとなったら、時間はかかってもきちんとした自分らしいものを。
そんな気がします。
最初からきちんとした店を出せという意見も当然あるでしょう。
でも私はこの蕎麦屋が今後どうなるのか見ていたい。
ひら野や清かわのような趣味蕎麦に行くのか、大衆蕎麦屋か、はたまた酒を美味く飲ませる居酒屋的蕎麦屋になるのか。
どの道を進んでいくのか、ものすごく気になる。
柔らかめの蕎麦に甘めの汁。どうなんだと聞かれれば、私の好みとはやや違う。でも、今この時点で評価するのは酷と言うものです。良いところも気にいらないところもある。
お勘定をして店を出るときの『有難うございました』と言う言葉には真摯な響きがありますよ。
むしろ頻繁に顔を出して、自分の好みを伝えたい気になっています。
ブチブチと文句を言うのは期待の裏返しなんです。
ヒネクレ者ですから。

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