毎週に日曜日は実家に行くことになっているのだが、先週は断念。
どうしても今週には行かないといけないので、いっそのこと寄り道して、以前紹介できなかった夢屋で昼飯を取ることに決めていた。

三社祭が終わって間もないせいか、浅草にはいつにも増して人が多かった。
ガイドブック片手の老夫婦や若い女性グループが目立つ。
観光客相手の人力車が通る。
右の写真は豆乳売り。
豆乳と豆乳アイスを売っている。こんな商売は昔はなかったけれど、江戸情緒を売りにしているんだろう。
老舗の大旦那に店先でからかわれていた。
お互いに嫌味がなく微笑ましい。

伝法院に通じる仲見世柳通りに店を構える夢屋の住所は、
台東区浅草1−35−8。
非常にこじんまりとした店で、テーブル席2つとL字カウンターしかない。
口髭をはやした寡黙な店主と、話し出すと陽気な奥様2人で切り盛りしている。
ただのカレーショップに見えるが、店内にはタンドールがあってナンやタンドーリチキンも美味しい。
しかもビリヤーニまである。ビリヤーニはインドの炊き込み御飯のようなもの。
ただのカレー屋じゃない。
東京グルメで夢屋を
検索してみると評価は高くない。しかし私はこの店のカレーの完成度は非常に高いと思う。
東京グルメやザガットサーベイのような最大公約数的な評価は当てにならないとは言わないが、自分の嗜好に合わせた使い方をしないと頓珍漢な所にガイドされてしまうと言う典型的な例かもしれない。
『完成度が高い』なんて言うだけじゃ、何がどうなのか分かりませんね。
とにかくチキンカレーを観てください。見るんじゃなくて『観て』ほしい。
綺麗な色でしょう?!
透き通るようなオレンジ色のカレーなんです。
唐辛子やチリパウダーで赤くなった油が浮いているんじゃないんです。カレーソース自体がオレンジ色で美しい。そしてサラサラのスープのよう。
ここまで美しいカレーは見たことがない。
香りも秀逸です。
クローブの香りが立ってはいますが、それだけが突出しているわけじゃない。
私はいつも、最初にソースだけ口に含みます。するとクローブの陰に隠れていた甘いシナモンと清涼感のあるカルダモンの香りが鼻に抜けていく。
塩味は強くないし、旨味が津波のように押し寄せるカレーではありませんから、インパクトはないかも知れない。印象が薄いという評価も分からないことはない。
しかし食べてみると、塩気はこれ以上ない絶妙な加減であることに気付くはずです。日本料理の潮汁のような塩加減。これ以上濃いと塩辛さを感じ、これ以上薄いとボケボケになる。均衡点なんです。
そして必要以上の旨味は加えていない。旨味がないんじゃありません。舌にまとわりつくような旨味の加え方をしていないということです。
真っ黒になるぐらい玉葱を炒めて甘味を加えたりしない。
だから、最初の一口をソースだけで味わうと、そのままソースだけ飲んでしまいたい誘惑に駆られる。
そしてこのソースは夢屋のスパイシーライスと出会って、初めてカレーとして完成します。

写真に撮ると、ただのご飯にしか見えないのは承知の上で載せました。(笑)
カレーはこの写真のほうが実物の色合いを現しています。黒くポツンと写っているのは黒胡椒のホール。噛むと、煮込まれ柔らいだ胡椒の香りが広がります。
夢屋のスパイシーライスは、4種のスパイスと塩を入れた湯で硬めに炊いて湯を切ったあと、同じ湯で洗ってヌメリを落としてからオーブンで蒸らします。だから食べるとパラリとしているだけじゃなく、スパイスの香りが口に広がる。
このご飯に同じ4種のスパイスをスターターとして使ったカレーをかける。(スターター・スパイスとは、カレーを作る最初の工程で、玉葱を炒める油に香りを移しこむために使うホールスパイスのことです)
するとソースの中の刻み玉葱だけがご飯に乗り、サラサラのソースは一瞬にして下に沈み込みます。
カレーソースに洗われたスパイシーライスを食べてご覧なさい。
同じスパイスを使ったご飯とカレーが相性が悪かろうはずがない。ご飯とカレーのスパイスが相乗効果を伴って、口や鼻だけでなく、もう全身が香りに包まれます。
カレーの塩気が抑えられているのは、ご飯を炊くときにも塩を用いていることも一つの理由だと思います。
スパイスにガツンと殴られるような刺激は全くありませんが、とにかく美味しいんです。インドの人が日々食べているカレーを昇華させると、このようになるのではないかと思わせる。
チキンカレーに入っているのは地鶏のヒナの肉。
フォークも出してくれますが、必要のないほどハラリと骨からはずれる。
柔らかい鶏肉にはスパイスが馴染んでいるので、変な臭みなんか微塵もない。

付合せもまたカレーと合うんです。
福神漬け、大根の桜漬け、玉葱の酢漬け。
どれも甘過ぎたり、酸っぱ過ぎたり、うま過ぎたりしません。
絶対にカレーの邪魔はしない。
私は玉葱が好きですが、大根のファンは多い。
目一杯、乗せている人を見かけます。
これだけのカレーが880円です。
私は高いなんて思いません。
カレーとすればカーマのほうが好き。
でもそれは私の嗜好で、夢屋が劣ると言うものではない。
確かに圧倒されるようなカレーではありません。
でもそれは夢屋のカレーが印象の薄いカレーだと言うのとは断じて違う。
私にとっては夢屋のカレーは、非常に印象深い、完成度の高いカレーなのです。
良く出来たカレーは決してB級グルメなんぞではない、と証明してくれるカレーです。
浅草でご飯を食べる時には、夢屋のカレーも検討してみてください。
辛さは4段階で選べます。一緒の人が辛いの苦手でも大丈夫ですよ。

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