肴の萬屋で活ホッキの貝焼きのレポートに書いたとおり、萬屋の後に向かったのはスパイスマジック・カルカッタ。
もともとはカルカッタに行きたいカレー好きとの晩飯だったのに、後輩達が遅れてやってくることになった。遅れてくる彼らを待ったために、肴の萬屋で美味しいホッキと酒にありつけたようなもの。萬屋を出てから再び駅に向かい、懐かしい後輩たちと再会。話もそこそこにカルカッタへ。
初めての西葛西で、意外と飲食店が多いと驚く客人達。メトロを抜けて、専門学校の前を通り過ぎ、飲食店が少なくなってきた頃に唐突に現れるチープな電飾。『これって、普通の家?』という顔をしている客人達を先導して店内へ入る。
席について気がついたのだが、私以外の奴等はほぼ同じ時期にロンドンに居たことがあるんだった。
インドの旧宗主国であるイギリスにはインド料理店が多い。私なんかより、よっぽど食べ慣れているわけです。皆それぞれに勝手なことを言い出した。
『俺、ローガンジョシュが好きなんですよ』
『おや?この、胡麻のナンって何でしょうね?食べたこと無いな』
『すみませーん!生ビール4つ!!』
『メニュー見てると北系みたいだから、バターチキンマサラとかが良いんじゃないの?』
『とりあえずオーソドックスな所からスタートしようよ』
『マトンコルマとローガンジョシュって何が違うの?』
『タンドールの盛り合わせみたいのありますかぁ?』
『バミセリ・ウプマとかは?』
もう収拾がつかないので、全てお任せで出してもらうことに。
写真の他にタンドールで焼いたものを山盛り出してもらいました。
タンドーリチキンやシークカバブの他にも沢山あって、ビールがすすむこと、すすむこと。



ナンもプレーン、胡麻、チーズと頼んでみました。
ここのナンはやはり美味しいですね。片手でちぎれる柔らかさと口に入れた時のモッチリした感じ。プレーンのナンに何も付けなくても、ほんのりと甘味があって美味しい。
ビールもがっつり飲んだし、カレーも食べた。それに肴の萬屋で2合ほど日本酒も飲んでるんだった。もうそろそろかなと思いながらも店の人と話していたら、なんとビリヤーニがあるという。
前からあったっけ? 気がつきませんでした。
ビリヤーニはインド式炊き込み御飯と言うようなもので、おめでたい席やお客様をもてなす際に供されるもの。インド料理店のメニューで見かけることはありますが、なかなか本式のものはない。カレーピラフのようであったり、ドライカレーのようであったり、カレー焼き飯だったり。
実のところ私は『これが The ビリヤーニ だ』という料理を食べたことがないんです。食べたことも無いのに、何故まがい物が多いなどと言えるのか?
それは基本的な料理法は知っているからです。そして簡易法のビリヤーニは食べたことがある。
ビリヤーニは非常に手の込んだ料理なので、まともなビリヤーニを出すレストランでもたいていは簡易法で作ることが多いと聞きます。それでも充分美味しいです。この簡易法ビリヤーニとカレーピラフ的まがい物は全然違います。
ビリヤーニはまずスパイスライスを硬めに炊き込むことから始まります。
この時に使われる米は長粒米のなかでも最も長いとされる米。この米は上手に炊くとものすごくいい香りがする高級米。この米を塩、ギーというバターの上澄みのような純粋なオイル、カルダモン、クローブ、シナモンなどのスパイス類を使って炊き上げる。ギーで炒めてから炊く方法も炒めない方法もあるらしい。
それとは別にヨーグルトベースのカレーを作る。今日食べたカレー4種は全てトマトベースのカレーですが、トマトを全く使わないカレーもあります。スパイスとヨーグルトで肉を炒め煮にした感じです。これにレモン汁で酸味と風味をつけることが多い。これだけでナンやご飯と美味しく食べられますよ。
深鍋を用意して、スパイスライスとヨ−グルトカレーが交互に層をなすように敷き詰める。ピッタリと蓋をして、小麦粉を水で練って捏ねたもので隙間を塞ぐ。
この深鍋を火にかけて蒸すのですが、蓋の上にも炭火を置いて上下から火を通していく。
こうして出来るのがビリヤーニです。ピラフや炒飯とは全然違うでしょ。
ヨーグルトベースのカレーが米全体に回って、米からはスパイスの香りが立ち上り、2つの料理が一体となったようなご馳走なんです。
作るのに非常に手間がかかるし、ポピュラーじゃないのでオーダーは少ない。そこで日本のレストランでは、スパイスライスとカレーを混ぜて鍋に入れてからオーブンを使うことが多いそうです。これなら15〜20分ぐらいで供することが出来る。それでもカレーの美味しさが充分に米に回れば、味わいのある簡易ビリヤーニになる。
出てきた時には、小さな深鍋からひっくり返して皿に盛りました、と言わんばかりの綺麗な山型でした。米粒が長いでしょう。この米が良いんです。中が見えるように崩してみましたが、奥にマトンの塊が隠れているのが分かるでしょうか。
横についているのはヨーグルトを使ったサラダの『ライタ』です。一緒に食べると美味しい。
もっとスパイスの香りを活かせるようにして欲しいのと、浅葱ではなくてちゃんとパクチーを散らして欲しい。
あと一手間かけてくれないかな、などと欲を言えばきりがない。
頼む人がいるかどうかも分からないぐらい知られていない料理だと思うので、本式に作ってくれなんてとても言えません。それでも、なかなかのマトン・ビリヤーニです。ピラフだと思って食べると、味の深さに驚きますよ。

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